生物時計の作動原理のシステム理解に向けて

哺乳類の概日リズムの中枢は、視床下部の視交叉上核に存在し、多様な特性を持つ約2万個の神経細胞集団が階層的なネットワークを形成する。視交叉上核は網膜から直接の光情報を受けて情報を統合し、脳の他の領域や全身の末梢臓器へとリズム情報を伝え、最終的に睡眠覚醒やホルモン分泌などの約24時間の生理機能を調節する。視交叉上核の神経-グリア細胞ネットワークは、組織全体としては24時間に正確でロバストなリズムを示す一方で、分散培養した細胞はリズム周期が不安定でばらつくことから、組織としての安定性やロバストさは時計細胞の相互作用により生み出されると推定されている。生物時計の次なる全容解明へのブレイクスルーの為には、時計細胞の活動を1細胞〜細胞集団レベルで高時間空間分解能で可視化し、細胞機能を自在に操作することが可能な技術基盤を構築することが必要である。

生物時計の多機能イメージング解析
これまで榎木は、高感度CCDカメラ、ニポウディスク共焦点、自動焦点補正顕微鏡などからなる観察システムを構築し[Enoki et al., J.Neurosci Method, 2012]、アデノ随伴ウイルスの感染により多色の機能プローブを視交叉上核の細胞に発現させることで、細胞内カルシウム濃度を指標に視交叉上核の細胞ネットワークでの細胞間連絡のメカニズムを解明してきた[Enoki et al., PNAS, 2012]。また時計遺伝子発現、神経発射活動などの多機能の細胞機能を計測することで、時計機能の出力機構を解明し [Enoki et al., Scientific Reports, 2017]、さらに膜電位の長期光計測により神経細胞ネットワークで同期する概日膜電位リズムの特性を発見た[Enoki et al., PNAS, 2017]。また視交叉上核の主なリズム投射先である室傍核/傍室傍核領域において0.5-4時間周期のウルトラディアンリズムを見いだしている[Wu, Enoki et al., PNAS, 2018]。

ナノテクノロジーを用いた生物時計の作動原理の解明
生体に存在する細胞ネッワークを詳細に解析して作動基盤をトップダウン的に研究するアプローチの他に、1細胞レベルでリズム特性を計測し、細胞を操作して結合させることで、人工的に細胞ネットワークを再構成するボトムアップのアプローチが極めて有効である。Micro Electro Mechanical Systems(MEMS)を利用した微細加工技術を用いて、培養する細胞数や形状を1細胞から数細胞まで制御できるマイクロパターン基板を作製し、視交叉上核の時計細胞を培養して、光イメージング法により少数細胞からリズム特性を計測する研究を行なっている。

2013 R.Enoki@Hokkaido Univ, Grad Sch of Med